『Quick Japan』95年3号 「いじめ紀行 第1回ゲスト 小山田圭吾の巻」 4

"いじめられっ子"は二人いた

小山田さんによれば、当時いじめられてた人は二人いた。

最初に登場するのが沢田君(仮名)だ。



「沢田って奴がいて。こいつはかなりエポック・メーキングな男で、転校してきたんですよ、小学校二年生ぐらいの時に。それはもう、学校中に衝撃が走って(笑)。だって、転校してきて自己紹介とかするじゃないですか、もういきなり(言語障害っぽい口調で)『サワダです』とか言ってさ、『うわ、すごい!』ってなるじゃないですか。で、転校してきた初日に、ウンコしたんだ。なんか学校でウンコするとかいうのは小学生にとっては重罪だってのはあるじゃないですか?で、いきなり初日にウンコするんだけどさ、便所に行く途中にズボンが落ちてるんですよ、何か一個(笑)。そんでそれを辿って行くと、その先にパンツが落ちてるんですよ。で、最終的に辿って行くと、トイレのドアが開けっ放しで、下半身素っ裸の沢田がウンコしてたんだ(笑)」



「だから、何かほら、『ロボコン』でいう『ロボパー』*1が転校してきたようなもんですよ。(笑)。で、みんなとかやっぱ、そういうの慣れてないから、かなりびっくりするじゃないですか。で、名前はもう一瞬にして知れ渡って、凄い奴が来たって(笑)、ある意味、スターですよ。別に最初はいじめじゃないんだけども、とりあえず興味あるから、まあ色々トライして、話してみたりするんだけども、やっぱ会話とか通じなかったりとかするんですよ。おまけにこいつは、体がでかいんですよ。それで癇癪持ちっていうか、凶暴性があって……牛乳瓶とか持ち出してさ、追っかけてきたりとかするんですよ。で、みんな『怖いな』って。ノロいから逃げるのは楽勝なんだけど、怒らせるとかなりのパワーを持ってるし、しかもほら、ちょっとおかしいから容赦ないから、牛乳瓶とかで殴られたりとかめちゃめちゃ痛いじゃないですか、で、普通の奴とか牛乳瓶でまさか殴れないけど、こいつとか平気でやるのね。それでまた、それやられると、みんなボコボコにやられるんだけど」



「僕とこいつはクラス*2は違ったんですけど、小学校五年ぐらいの時に、クラブが一緒になったんですよ。土曜日に二時間ぐらい。選択でいろんなクラブ選べるとかいうので、僕、"太鼓クラブ"とかに入って(笑)、かなり人気のないクラブだったんですよ。ウチの学校って、音楽の時間に民族舞踊みたいなやつとか、『サンサ踊り』とか、何かそういう凄い難しい踊りを取り入れてて。僕、踊り踊るのヤだったの、すごく。それで踊らなくていいようにするには、太鼓叩くしかなかったの。クラスで三人とか四人ぐらいしか太鼓叩く奴はいなくて、後は全員、踊らなきゃいけないってやつで。僕は『踊るのはキツイなー』って思って、『じゃ、太鼓の方がいいや』って。結構、太鼓が好きだったんですよ、僕。それで太鼓クラブに入ったんですけど、するとなぜか沢田が太鼓クラブにいたんですよ(笑)。本格的な付き合いはそれからなんですけど、太鼓クラブって、もう人数が五人ぐらいしかいないんですよ、学年で。野球部とかサッカー部とかがやっぱ人気で、そういうのは先生がついて指導とかするんだけど、太鼓クラブって五人しかいないから、先生とか手が回らないからさ、『五人で勝手にやってくれ』っていう感じになっちゃって。それで音楽室の横にある狭い教室に追いやられて、そこで二時間、五人で過ごさなきゃならなかった。五人でいても、太鼓なんか叩きゃしなくって、ただずっと遊んでるだけなんだけど。そういう時に五人の中に一人沢田っていうのがいると、やっぱりかなり実験の対象になっちゃうんですよね」



段ボール箱とかがあって、そん中に沢田を入れて、全部グルグルにガムテープで縛って、空気穴みたいなの開けて(笑)、『おい、沢田、大丈夫か?』とか言うと、『ダイジョブ…』とか言ってんの(笑)。そこに黒板消しとかで、『毒ガス攻撃だ!』ってパタパタやって、しばらく放っといたりして、時間経ってくると、何にも反応しなくなったりとかして、『ヤバいね』『どうしようか』とか言って、『じゃ、ここでガムテープだけ外して、部屋の側から見ていよう』って外して見てたら、いきなりバリバリ出てきて、何て言ったのかな……?何かすごく面白いこと言ったんですよ。……超ワケ分かんない、『おかあさ〜ん』とかなんか、そんなこと言ったんですよ(笑)それでみんな大爆笑とかしたりして」



「本人は楽しんではいないと思うんだけど、でも、そんなに嫌がってなかったんだけど。ゴロゴロ転がしたりしたら、『ヤメロヨー』とか言ったけど」



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*1:石森章太郎原作『がんばれ! ロボコン』(1974年、『少年サンデー』)に登場するキャラクター。怒るとすぐ壊れる。次ページ、小山田氏のイラスト参照のこと。f:id:bibokj:20210901205708p:plain

*2:和光では、進級してもクラス替えはない。進学の時だけだ。一度ターゲットになると、最低三年は逃げられない。

『Quick Japan』95年3号 「いじめ紀行 第1回ゲスト 小山田圭吾の巻」 2

小山田圭吾=いじめっ子?

小山田圭吾といえば、数年前にアニエスb.を着て日本一裕福そうなポップスを演っていた、あのグループの一員だ。

ソロになった今でも彼の音楽は裕福そうだが、そんな彼は私立小・中学時代*1いじめる側だったらしい。

ヤバい目つきの人だなあ*2とは思っていたが。

「全裸にしてグルグル巻きにしてオナニーさせて、バックドロップしたり」とか発言してる。

それも結構笑いながら。



僕も私立中学・高校とエスカレーターで通っていたので、他人事とは思えなかった。

僕の当時の友人にはやはりいじめ加害者や傍観者が多いが、盆や正月に会うと、いじめ談義は格好の酒の肴だ。

盛り上がる。私立って、独特の歪み方をする。

小山田さんは、「今考えるとほんとヒドかった。この場を借りて謝ります(笑)」とも言っている。

だったら、ホントに再会したらどうなるだろう。いじめっ子は本当に謝るのか?いじめられっ子はやっぱり呪いの言葉を投げつけるのか?ドキドキしてきた。

対談してもらおう!

最終的にはいじめられてた人の家の中まで入った。しかし結局この対談は実現せず、小山田さんへの個人インタビューとなった。

以下、この対談の準備から失敗までを報告する。



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*1:私立和光中学。小学校から大学まで一貫教育。東京都下の町田市に存在し、フリッパーズ・ギターリトル・クリーチャーズを輩出。

*2:ダウンタウン松本と同じ目だ。

『Quick Japan』95年3号 「いじめ紀行 第1回ゲスト 小山田圭吾の巻」 1

僕は『月刊ブラシ』*1というミニコミを編集している。

 

インタビュー中心の雑誌で、二二の時に創刊して、もう二年が過ぎた。今までにインタビューしたのは、爆弾製造青年、五年間顔を合わせたことのない隣人、日本語学校の生徒、駆け出しの探偵、等々。特に決まったジャンルとかは無いので、今は閃いたことを全部やるようにしている。

 

インタビューをしてると、相手が「マンガみたいな現実」を語ってくれる時がある。例えば、爆弾製造青年が高校の時に友達から「不良にからまれるから爆弾作ってくれ」って言われたとか、「探偵が学校に潜入する時は用務員のフリをする」とか、そんな話にはメチャクチャシビレる。

 

関係ないけど「スティービー・ワンダーは必ず綺麗な女を選ぶ」とか「ビーチ・ボーイズはメンバー全員カナヅチだ」とか、「火葬場はやはり火事がおこりやすく、職員が焼け死ぬことがよくある」*2とか、そんなエピソードも大好きだ。

 

そんな僕にとって、"いじめ"って、昔から凄く気になる世界だった。例えば

 

*ある学級では"いじめる会"なるものが発足していた。この会は新聞を発行していた。

あいつ(クラス一いじめられている男の子)とあいつ(クラス一いじめられている女の子)はデキている、といった記事を教室中に配布していた。とか、

 

*髪を洗わなくていじめられていた少年がいた。確かに彼の髪は油っぽかった。誰かが彼の髪にライターで点火した。一瞬だが鮮やかに燃えた。

 

といった話を聞くと、

"いじめってエンターテイメント!?

"とか思ってドキドキする。

だって細部までアイデア豊富で、何だかスプラッター映画みたいだ。

(あの『葬式ごっこ*3もその一例だ)

 

僕自身は学生時代は傍観者で、人がいじめられるのを笑って見ていた。短期間だがいじめられたことはあるから、いじめられっ子に感情移入する事は出来る。でも、いじめスプラッター*4には、イージーヒューマニズムをぶっ飛ばすポジティヴさを感じる。小学校の時にコンパスの尖った方で背中を刺されたのも、今となってはいいエンターテイメントだ。「ディティール賞」って感じだ。どうせいじめはなくならないんだし。

 

去年の一二月頃、新聞やテレビでは、いじめ連鎖自殺が何度も報道されていた。「コメンテーター」とか「キャスター」とか呼ばれる人達が「頑張って下さい」とか「死ぬのだけはやめろ」とか、無責任な言葉を垂れ流していた。嘘臭くて吐き気がした。

 

それに、いじめた側の人がその後どんな大人になったか、いじめられた側の人がその後どうやっていじめを切り抜けて生き残ったのか、これもほとんど報道されていない。

 

誰かこの観点でいじめを取り上げないかな、と思っていたら、昔読んだ『ロッキング・オン・ジャパン*5小山田圭吾インタビューを思い出した。

 

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*1:現在六号「特集・隣人にインタビューする」発売中。本誌"インディ・マグ紹介"のページ参照。

*2:猪瀬直樹・著『日本凡人伝・死を見つめる仕事』(新潮文庫)参照

*3:一九八五年一一月、東京中野区の中学校で起きた。いじめられっ子がみんなで弔いの言葉を寄せ書きし、本人に贈呈したというもの。机には寄せ書きの他に、穴を開けて火のついた線香を刺した夏ミカン、花を挿した牛乳ビン、アメ玉等も添えられていた。寄せ書きには担任も参加した。この後、いじめられっ子は本当に自殺する。

*4:ビデオ屋ではホラー・コーナーに並べられているアメリカ映画『悪魔の毒々モンスター』シリーズは、いじめスプラッター映画として必見。

*5:一九九四年一月号